令和5(2023)年1月30日最高裁第二小法廷判決「令和3年(受)第2050号発信者情報開示請求事件」が下され、当日、判例(過去投稿プロバイダ事件)が既に公開されています。
主 文
1 原判決中、上告人の原審における追加請求に関する部分を破棄する。
2 被上告人は、上告人に対し、原判決別紙1発信者情報目録記載5の情報を開示せよ。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
【要約】
プロバイダ責任制限法省令が改正され、改正省令により、発信者情報に発信者の電話番号を追加する旨の改正がされた(以下、上記改正前後の本件省令をそれぞれ「改正前省令」、「改正後省令」という。)。
経過規定がない為、流通時期に関わらず「改正後省令(現行法令)」が及ぶと解釈され、発信者の電話番号開示が追加認容された最新判例。
平成30年11月22日に掲示板投稿され、平成31年1月24日までに電子掲示板から削除され、令和元年6月に発信者情報開示請求・本件訴えを提起し、改正省令の施行後である令和2年9月、原審に おいて、上記の者の電話番号(本件情報)の開示を求める請求を追加する訴えの変更をした。原審は、令和3年5月、口頭弁論を終結し、改正省令の附則に改正後省令3号の遡及適用を許容する根拠となり得る規定 がない以上、許されない。とした原審(東京高等裁判所令和2(ネ)246)を棄却して、追加認容・開示命令判決をくだした。
判例:令和3年(受)第2050号 発信者情報開示請求事件 令和5年1月30日 第二小法廷判決
(判 例 抜 粋)
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次 のとおりである。
(1) 法4条1項は、所定の要件の下に、特定電気通信による情報の流通によって 自己の権利を侵害されたとする者が開示関係役務提供者に対して当該権利の侵害に 係る発信者情報の開示を請求することができる旨を規定するものであって、平成1 4年5月27日の法の施行から令和3年法律第27号(令和4年10月1日施行) による改正までの間、改正されていない。本件省令は、法4条1項の委任を受けて、改正前省令では、発信者情報として発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名、住所等を定めていたところ、改正省令により発信者情報に発信者の電話番号を追加する旨の改正がされたが、改正省令その他の法令において、改正省令の施行前にされた情報の流通による権利の侵害に係る発信者情報の開示の請求について改正後省令の規定の適用を排除し、改正前省令の定めるところによる旨の経過措置等の規定は置かれなかった。そうすると、上記施行後にされた法4条1項に基づく発信者情報の開示の請求については、権利の侵害に係る情報の流通の時期にかかわらず、改正後省令の規定が適用されるというべきである。
そして、法4条1項が同項による開示の請求の対象となる情報を総務省令で定めることとした趣旨は、情報通信を取り巻く技術の進歩や社会環境の変化等により開示関係役務提供者の保有する発信者の特定に資する情報の内容や範囲が変わり得るため、総務省令の改正による機動的な対応を可能とすることにあると解され、改正省令による本件省令の改正は、上記趣旨に従い、発信者情報に発信者の電話番号 (改正後省令3号)を追加するものにとどまることからすれば、法4条1項及び改正後省令3号の解釈として、改正省令の施行後にされた情報の流通による権利の侵害に限り、発信者の電話番号が発信者情報として開示の請求の対象に含まれることになると解することはできない。
(2) 以上によれば、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該権利の侵害が改正省令の施行前にされたものであったとして も、法4条1項に基づき、当該権利の侵害に係る発信者情報として、上記施行後に発信者の電話番号の開示を請求することができるというべきである。
したがって、上告人は、上記施行前に本件記事の投稿によってされた自己の権利の侵害に係る発信者情報として、発信者の電話番号の開示を請求することができる。
5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中、上告人の原審における追加請求に関する 部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、原審の確定した事実関係の下においては、上記部分に関する上告人の請求は理由があるから、上記請求を認容すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判 尾島 明 裁判官 三浦 守 裁判官 草野 耕一 裁判官 岡村 和美)